秘境 雲ノ平へ


北は立山、南は穂高。黒部川が刻む深い渓谷に廻りをぐるりと取り囲こまれた、城郭のような2500mの高台に広がる楽園。

雲ノ平は、「最後の秘境」なんて呼ばれることもあります。

年間数十万人が訪れる日本一ポピュラーな北アルプスに「秘境」は似つかわしくない通称のようですが、雲ノ平へ辿り着くにはどうアクセスしようと片道10時間以上の山行を余儀なくされるのですから、あながち大げさとも言えないのかもしれません。



さて、連日「危険」な猛暑日が続く東京では自転車に乗るのもままならず、このままではクーラーの効いた部屋に引きこもる運動不足のカウチおやじに成り下がってしまう!という危機感を感じ始めた僕は、暑さで処理能力が著しく低下した脳に閃いた「どうせ引きこもるなら部屋より山がイイ」という比較にならない比較によって決断を下し、おとどしあたりに受けた四十肩の急襲以来ご無沙汰だった70㍑ザックに山道具の一切合財を詰め込んで、特急「はくたか」で富山へ乗り込んだのでありました。


富山に一泊し、しばらくはおあずけとなる柔らかな布団での眠りから覚めた僕は、早朝5時をすぎる頃には富山駅前を発する「折立」行きのバスの乗客となっていました。
「折立」というのはそこまで行けば車道は行き止まり、俗世との境界を越える登山客専用の終着停車場なのですが、近年の登山ブームのなせる技か、40人乗りの大型バスはほぼ満員、停車場前の駐車スペースはスズナリの車で埋まるという盛況ぶり。
「ハテ、ここは秘境の入り口のハズでは?」と微かなギモンを感じつつ、ハツラツと登り始める同乗の山ガール山ボーイ、そして熟年パーティたちの後ろから、コソコソソロソロ、秘境へつながる坂道を登り始めたのでした。


ちなみにこの坂、通称三角点と呼ばれる地点(実際、三角点はあるのですけど)まで600m程度の高度をイッキに登る急坂です。600mといえばスカイツリーのてっぺんまでとおんなじ高さ、そこまで階段で登るんだ、って言ったら、少しは「大変だ!」と思っていただけるでしょうか?


その急坂をなんとか抜けると出迎えてくれる、タテヤマリンドウの可憐な白い花。

標準的な気圧の下では100m高度が上がると約0.6度温度が下がります。
折立ではすでに標高が1400m程度ありましたから、この辺りはすでに標高2000m、下界とは12℃も隔たりがある別世界。頬にそよぐ風が爽やかです。

とはいえ、背中に担ぐのは今どきこのサイズはお店に行っても見かけない程の大型ザック、そこへ詰め込まれた荷物は手持ちの山道具の一切合財、すなわちテントを始めシュラフにコッヘル、ランタンにバーナー、衣類に食料に水、そしてカメラ機材、と20kgを余裕で超えており、まあそれはちゃんと取捨選択して軽量化を図らなかった自身の甘さの結果なのですけれど、当然のように初日からへたばり、ヨタヨタと足元がフラつき始めてしまいました。


急登をすぎ、ようやく緩やか(?)になった坂をさらに登り続け、なおさら溜まる疲労でぐったりとうなだれたままキシキシときしみ始めた膝と地面を交互に見比べるだけだった視線をふと前へ戻すと、今日の宿泊地「太郎平」に建つ山小屋の影がうっすらみえました。おお、「ジゴクにホトケ」とはまさにことのと。ずっしりと肩に食い込んだ荷物さえ急に軽くなったようにすら思えたのでした。


太郎平から少し離れた薬師峠キャンプ場まで行ってようやくテントを設営、本日の苦役からは開放されました。
目的の雲ノ平へはここからさらにもう一日かけ、せっかく苦労して稼いだ高度を黒部川の渓谷まで一気に下り、再び北アルプスの三大急登に数えられるほどのジゴクの坂道を登りきらなければ辿り着けません。

「やっぱ秘境だわ。」と、いまさらオソレいった僕なのでした。



さて、フラフラな足元でさらに雲ノ平へ分け入って数日間を彷徨い歩いた僕ですが、せっかく担ぎあげた重いカメラと三脚を無駄にはしまい、とイジで写真を撮ってきました。
その結果は明日以降、(せっかくつくったネタなのでチビチビと)ブログに上げていきますよ。

乞うご期待。



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