蛍の舞う夜〜信州伊那市、思沢川


「17年。」
蛍たちを愛でるために集まってきた人々を優しい瞳で見守るご老人が、つぶやくように教えてくれました。

何の知識も無い素人同士が集まることから始め、ある年には川床を湿地に戻し、またある年には餌となるカワニナを育て、草花を植え、毎年毎年少しずつ夢をつなぎ、重ね続けてきた年数です。

蛍が好む暗闇では足元が危うかろうと、導線となる小径には竹筒に包まれた小さなろうそくが並べられ、さり気なく客人たちをもてなしてくれてもいました。

成虫へ羽化し幻想的な光を放ち始める6月の中旬から産卵期を終え命絶えるまでの約1ヶ月、「思沢川に蛍を育てる会」の皆さんが毎晩、路地に立ってガイドを務めてくださっています。

それらはすべて無償のボランティア。


彼らの優しい努力は、自由奔放に光り舞うホタルたちを呼び戻すだけでなく、いつ頃からかコンクリートで固められた排水路と成り果てていたその川に、清い流れと思沢(おもいさわ)という素敵な名前を取り戻させてもくれたのです。




その夜はただ蛍が美しかった、というだけではなく
なにか温かい気持ちもいっしょにもらったような、忘れがたい一夜となったのでした。




「旅のあしあと」で全体をみる

0 コメント:

コメント欄の表示