赤岳鉱泉




学生時代、
朝から晩までびっちり埋まる講義のコマと
実験や課題のレポート期限に追われる毎日の合間を縫って

単位を落とさない範囲で
なんとか山へ逃げ込む時間を捻出しようと
忙しい時間を共有できる工学部だけで結成された
山岳サークルに所属していた僕達が、

時にはアイゼンの歯も立たないほど
凍りついた岩稜と格闘するため、

時にはただ山の匂いに包まれ眠るため、
最も足しげく通った山が八ヶ岳でした。

それほどこの山を愛したのは、
南側には3000m級の主峰赤岳を中心とした
急峻な岩稜と堂々たる山容を有し、
北側は深い森に包まれた女性的で
ふくよかな起伏が蓼科高原へ連なるという

ひとつの山域で
全く異なる2つの表情を合わせもつ八ヶ岳には
岩と雪、森と土の香り、沢と川のせせらぎ、
山を楽しむためのあらゆるフィールドが
用意されている場所だからです。

あれからカレコレ20数年、
再び当時と同じ道を歩いて赤岳鉱泉へ上がってみました。



一日に数本しか無いバスに乗って降り立った場所は
赤岳へのアプローチとして最もポピュラーな美濃戸口。
ここから2時間ほど車の通行も可能な林道を歩きます。

20年たっても
山の風景はちっとも変わった様子はありません。

昔の記憶というのは
時を追うごとに美しく修飾されるものと言いますが、
記憶の中の光景が
今も変わらず眼前にあることが素直に嬉しい。



林道が途切れたところから沢を越え、
漸く山道らしくなった沢筋を登り始めると
やがて懐かしい岩峰
「大同心」が目前に現れます。

下から見ると
稜線の上にひょっこりのっかるように聳えるこの岩峰は
冬場には雪と氷に覆われた巨大な氷塔となり
腕に覚えのある兵達が集まる
アイスクライマーのメッカとなります。

赤岳鉱泉は、
この大同心を見上げる絶好の場所に拓かれた
八ヶ岳の一大拠点なのです。


小屋という表現が不似合いな程
立派な造りの山小屋には、
なんと風呂までついています。

ここに泊まれば荷物も軽く済み
さぞ快適なんでしょうけれど、
なぜだか僕は重いザックを担いでテント泊です。



雨さえ降らなきゃ、山ではやっぱりこれが気持ちいい。
窮屈や不便も、楽しみ方の一つです。

シリーズ:八ヶ岳縦走


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