乗鞍へ駆け上がろう


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その道は森を抜け山肌を這い、
森林限界を超えて高度2700mの高みまで続きます。

乗鞍エコーライン。

舗装路しか走れないロード仕様の自転車では
ここはおそらく日本で経験できる
一番高い場所へ続く道です。

ゴール付近から見下ろすその道は、遥か雲の下に霞み
自らの足で登ってきた事が信じられないほど。

次第に急になる傾斜と薄くなっていく空気、山頂から吹き下ろす風。
様々な障害を乗り越えて最高到達点に辿り着いた時の充足感は
正に至高のものと言えるでしょう。

さて。
先週伊豆へご一緒したおちゃさんですが、
伊東で飲みながら乗鞍の話をしたら、あっさり計画決定となりました。

本当ははまちゃんも誘いたかったんですけど、
足のチタンフレーム(!)を抜いたばかりで調子が上がらず、坂道は気が進まない様子。
(どうやら伊豆行きはリハビリの一環だったようですが、
それで150kmも走るんだからやっぱりあの人はオソロしい。)


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どうやらお祭りがあるのか、準備中の山車が慌ただしくが横切る道路を尻目に、
早朝に松本のホテルを出発します。

気温は10℃を少し上回る程度。
この分だと、昼頃つく予定の山頂付近は相当の寒さを覚悟しなければなりません。
下りの防寒対策はシッカリとね。

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松本から上高地へ向かう国道158号線を東上。
去年の秋、涸沢へ上がる際にバスで通過した道ですが
よもや自転車でここを走る事になろうとは思いませんでした。

松本から本格的な登り口である乗鞍高原スキー場まで
なにげに1000mくらい登らなきゃならないのですが、
このあたりじゃまだまだ余裕の笑みがこぼれています。

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トンネル地獄を抜け、スタート地点前なのにすでに急勾配な坂道を越え、
乗鞍高原スキー場までやってくると、とうとう正面に乗鞍岳が現れました。

正面に、というか、あれはまだ画面の上半分を占める書き割りの背景です。
青い空を掃く雲と同じ高さにあるそれを見上げて、
「自転車を漕いでいけばあそこへ辿り着くんだねぇ」
と、詩的な感嘆を漏らすおちゃさんなのでした。


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ここから少し上にゲートが設けてあり、マイカー禁止の乗鞍エコーラインが始まります。
バスやタクシー等の公共車両以外は、
自転車とハイカーしかいないという夢のようなクライミングロードです。

僕は高度2700mを写真を撮りながらゆっくりまったり走ろうと考えていたのですが、

「できればここから、足つき無しで最後まで走りきりたいなぁ。」

とおちゃさんが意欲的な発言をするもんだから、ちょっとその気になっちゃいました。
それじゃ、気合いを入れて行きますか!

ゲートを越えると、ほとんど平坦には戻らず登りが延々と続きます。

どんどん上がる高度につれ次第に気温も低くなり、
深緑の森が紅葉の林へと季節が変わってゆくのです。

つづら折りのカーブを曲がる度、
ページをめくるように変わるその光景は疲れた足を癒し
また次のカーブへ向かうパワーをくれるのでした。

やがて木々の背丈も低くなってゆき、
ついに森林限界を越えて岩にしがみつくように生えるハイマツだけになると
視界も大きく広がります。


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雲の先まであるような道の終わりは、残念ながらまだ見る事ができません。

腕時計についた高度計によると、すでに2500m。

明らかに薄くなった酸素をなんとか取り込もうと
呼吸はどんどん激しくなっていき、
山頂から激しく吹き下ろす風が遮る物なく体を襲い、
明らかにきつくなってきた傾斜の重力とタッグを組んで
なんとか自転車を押し戻そうとしてきます。
何度か止まりそうになる足を
おちゃさんのあの一言が支えます。
「なんとか最後まで!」

踏ん張りきってついにペダルが軽くなった時、
最高到達点に達していました。

「やりましたね!」
と振り返って感動を分かち合いたいところなのですが、
なぜかおちゃさんはそこにはいないのでした。


畳平バスターミナルのレストハウスでひとしきり待った後、
ようやく到着したおちゃさんと昼飯を食べて下山開始。

その間に急速に天候は悪化し、さっきまで晴れていた山頂付近はすでに濃い霧の中。
氷点下近くまで下がった気温に震えながら坂道を下り、
あまりの寒さに途中の位ヶ原山荘で休憩して体を温めることにしました。



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中へ入ると、若い店子さんがおちゃさんに向かって
「お帰りなさい!」
ってお声がけ。

電脳文化のせいじゃありません。

寒さに堪えかねたおちゃさんが、登りもここで休憩してたからです。

うぬぬ。
意欲的なあの言葉は。。。。

いえいえ、
いちいち止まってシャッター押しながら登っていたら、
決して味わえなかっただろう充足感を味わう事が出来たのは
あの言葉があったからです。

ありがとうございます。

春になったら、除雪でできた雪の壁を見にまたここへ戻ってきましょう。
残った課題はそのときにね。





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