秩父 刈場坂峠

人口7万人の秩父市を懐に抱いた秩父山麓は、谷筋尾根筋の縦横に林道が拓かれ、
豊かな自然の中を様々なルートでヒルクライムを楽しむことができる
自転車乗りには格好の場所です。

長く居座った冬がようやくその座を降り、風も日差しも柔らかくなりました。

季節は春です。

新しいシーズンの幕開けに、秩父を走りに行って来ました。



秩父山麓東の玄関口は飯能駅。
池袋から西武線でわずか一時間足らずの距離です。ここからなら煩わしい幹線道路を避けて秩父の山を一日かけて一巡りして戻ってこれるので、都心からアプローチする起点としてはうってつけ。

今回もここからスタートします。
飯能駅を南へ下って県道221号線にのり、ほどなく現れる小さな峠を越えると名栗渓谷に入ります。
以前、谷ひとつ北側のバイパスを走ったときには採石場を往復する大型ダンプカーの多さに辟易させられましたが、こっちの道から秩父へは山を越え随分遠回りになるためでしょう、大型車なんてほとんど通らず快適です。

温泉宿もあるこののどかな渓谷沿いの岸辺には桜並木も見えますが、まだ蕾は固いようです。かわりにどこからか開花の時を誘う鶯の声が、風に乗ってせせらぎの音に混じります。



前をゆったり走る自転車を追い抜きざまに「こんにちは。」って挨拶すると、「ああ、こんにちは。」って落ち着いたしぶい声の返事が返ってきました。短い挨拶は同好のマナーで決まりごとみたいなものですが、この刹那の会話には個性が滲んでいました。
遊びを知り尽くして後輩を見守るような余裕の返事。僕もこういう大人になりたいもんです。

渓谷を抜けるころにはいつの間にか道は幅が狭くなり、緩やかに登りはじめていました。
そろそろ峠の入口に近づいてきたようです。

ここから数キロ、正丸峠への道は勾配が少し急になってきます。
このワインディングロードはかつてローリング族とか呼ばれた走り屋どもの名所だったそうですが、幸いなこと今ではほとんど見かけることはありません。


急な坂道でよく見かけるゼブラ帯(減速帯)は彼らへの対策として普及したものだそうですが、自転車にとってパンクやオフコースの危険を生み出す厄介なシロモノです。それはルールを守らない一部の者の身勝手は多くの人に迷惑をかけるのだということへの戒めともとれるでしょう。
ブラインドコーナーでスピードを出したがるのは自転車も同じですからね。
ルール無用の街中ママチャリではないスポーツバイクに乗る者は、自転車乗りとしてのプライドを持ち、対抗車や歩行者への配慮を忘れたルール違反は厳に慎むべきでしょう。


さて、その曲がりくねった坂道をひと頑張りして登りきると、小さな茶屋のある正丸峠に到着します。
この峠の茶屋はボリュームがあってしかも美味しいと、走るために充分なカロリーを補給したい食いしん坊のサイクリストたちには好評のようなのですが、残念ながらシャッターが閉まっていました。到着するのが少し早すぎたのかもしれません。昼ごはんのアテが外れて少しがっかり。ここでくよくよしていたらますますお腹がすいてしまうので、眼下に広がる展望をしばし楽しんだ後、さっそく次の峠にかかるために反対側の坂道を下ります。



この坂道は下りきると幹線道路の正丸トンネルの入口につきますが、そっちはダンプの通り道なんで手前の道を左に折れますが、
こっちはいきなり10%越えの急な坂道がお出迎え。
この林道には「奥武蔵グリーンライン」という素敵な名前がついています。
クルマの通行量は少なく、見晴らしのいい尾根筋を巡る素晴らしいルートですが、落石があったり舗装に亀裂が入っていたりと少々荒れた箇所があって少し気を使います。
その荒れた道を稜線へ上がるまで、高度差500mが今日一番の頑張りどころ。
浮石でスリップしないよう、焦らずじっくりペダルを回していきましょう。


一汗かいて登りきり、着いたところが苅場坂峠。冒頭の写真のとおり、景色も今日一番です。峠は広い展望台で、気持ちのいい休憩場所になっています。

オフロードバイクのライダーと山登りのハイカーが写真を撮りながらくつろいでいました。


奥武蔵グリーンラインは、このまま毛呂まで続きますが、少し北側へ回り道をして梅本林道へ入り、越生(おこぜ)へ下ります。
結構な下り勾配に、あいかわらずの落ち葉や落石、それに時々道路を横断する排水溝が現れ、慎重に減速しながらのダウンヒルは登りよりも疲れます。
時間をかけて林道を抜け、広い県道にたどり着いた時は安堵の溜息が漏れたほどです。

そのまましばらく走って余裕ができ、改めてあたりを見回すと、そこここに梅林が広がっているのに気づきました。
走行中の道路の上にさえ甘い香りが漂ってきます。


まるで町中が梅の香りに包まれているよう。
暖かな春の日差しの中、桜と見紛うばかりに梅が見事な満開を迎えていました。

峠越えの後に思いがけないご褒美です。
シアワセに帰路につけたのでありました。

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