扉が開くと、アッと言う間にホームは人でいっぱいになり全員が改札を目指して無言で階段を登っていく。それはラッシュアワーの見慣れた光景だけれども、木更津駅では少しだけ違っています。
同じホームの4番線に1時間に1本だけ、別の世界から小さな2両編成の列車がやってくるのです。ディーゼルエンジンの排気に混じる、わずかな軽油の匂いを漂わせながら、ゆっくりゆったり。
「くるり」という、その路線の大和言葉のような不思議な名前は、まるで木更津のタヌキたちが唱える呪文のよう。
列車の中は先ほどの光景がうそのようにガラガラで、天井に据え付けられた懐かしい形の扇風機が静かに風を送っています。穏やかなその風をうけているのは乗り過ごしたのか発車を待っているのか、うたた寝のおば様ただひとりきり。
しばらくしてゆっくりと走りだした列車の車窓には、真夏のひかりに輝くみどりと田んぼが、紙芝居のように交互に流れていきます。
途中で遠足の子どもたちに出会いました。ちいさな車両にどんどん乗り込み、車内はたちまち歓声で沸き返ったと思ったら、数駅先で嵐が過ぎ去るように降りていきます。引率の先生は子どもたちに振り回されっぱなし。でも幸せそうに笑ってました。
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