獅子舞う〜若宮八幡宮社


「獅子舞なんか見たん、何十年ぶりやわ。」
舞終わった獅子に拍手を送っていると、
おばちゃんのつぶやく声が、ふと耳に入ってきました。

「陶器まつり」に湧く五条坂。お宮の境内から聞こえる軽快な太鼓の音色につられて鳥居をくぐると、ちょうど獅子舞が奉納されている最中でした。
そういえば昔はウチの近所でも、正月ごとに獅子舞が巡ってきていて、一節舞った後で厄除けに子供らの頭を噛んでいくという習わしがありました。


幼い僕はその獅子の大きな口がこの上なく恐ろしく思えて、遠くから笛太鼓の拍子が聞こえてくると慌てて押入れの中に駆け込んで、布団をかぶって震えていたものです。

しばらく後に近所の道路で迂闊にもクルマにはねられしまい、まあなんとか無事に病院から戻ってこられた時に、「ちゃんとシシさんに噛んでもらわへんからやで。」と半泣きの祖母に諭されたのですけど、そんな大事な獅子舞が現れなくなってしまったのが先か、それとも祖母が亡くなったのが先なのか、僕は大人になってそんなこともすっかり忘れてしまっていました。「何十年ぶりやわ。」とつぶやいたおばちゃんの言葉のおかげで、あの頃の出来事が蘇ってきたのです。

ひととおり感慨にふけった後「おばちゃんの声は祖母に似ていた」ということに気づいたのですけど、もうあたりにそれらしい人影はありません。

お盆にはちょっと早かったけれど、おみやさんの境内は一足先に繋がっていたのかもしれませんね。

「旅のあしあと」で全体をみる

0 コメント:

コメント欄の表示