若草山焼き


見栄えのいい画が撮れる場所を
早々と占領したアマチュア写真家たちが
ズラリと立てた三脚の群れを除けば
ずいぶん閑散とした雰囲気だった朱雀門前。

そろぞろと人が集まり始めたのは
ようやく日暮れ間近になってからだったけれど、
本番直前には広場は人で埋まっていた。

大勢の人が集まるイベント会場ではお馴染みの
あの殺気だったような騒がしさはなく、
皆静かに行儀よく若草山を見上げている。

かの三脚列とはすこし離れた場所で
のんびり写真の準備をしていた僕のとなりにも
いつの間にか現れた品のいいおばあちゃんが
携帯用の小さな椅子を据えつけて腰掛け、
「今日は寒のうてよかったねぇ」
と言いながら、これまた持参のポットから注いだ
あったかそうなお茶をすすってた。

時間になると
10分ほどの間に大輪の花火が盛大に打ち上がり、
それに続いていよいよ若草山に火が放たれる。

平城京跡から若草山までは少し距離があるからか、
東の空が赤く染まるほどの壮大な光景を想像していた割には
いくぶん控えめな炎がちらちらと揺れるのが見えただけで
やがてあっさりと静まっていった。

気がつくと、となりにいたおばあちゃんも広場の観客も
いつの間にかいなくなっている・・・。

京は千年の都というけれど、
奈良の都はそれより古い。

若草山がいつから燃されていたのかは知らないけれど、
いにしえの都人たちの楽しみ方は
悠久の時をかけて成熟し、すでに神秘的ですらあるのかも。


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